2005年に上海、2006年に北京および口本でアンケート調査を実施し、同時に人民日報と朝日新聞の内容分析を通して、中国のナショナリズムに関して次のようなことが明らかになった。まず、共産党が宣伝をしている愛国主義的英雄は中国人(特に高齢者)の間に浸透していた。しかし、若者の間では浸透は低かった。しかし、愛国主義教育の効果については明確な証拠は得られなかった。年齢が低いほど、また学歴が高いほど愛国心が低い傾向があった。心理尺度を用いて分析した結果、愛国心と自民族中心主義は、異なる変数として区別する必要があることがわかった。また、前者は生活満足度と正の相関があるのに対して後者は負の相関があり、両者には異なる心理的なメカニズムが背後にあることを示唆している。若者は高齢者よりも反日意識が弱い。一方、日本でも同様に若者は反中意識が弱く、この点は日中で共通であった。上海での調査からは、上海の反日デモにおいて、デモ関連の情報は、新聞やテレビではなく、インターネットや携帯電話によって伝えられたことがわかった。また、ナショナリズム意識の心理的背景として、経済発展した中国への自信や中国文化への自信があるようである。また、反日意識が日本の製品を避けるという意味での影響を持つことがわかった。ただし、通説に反してインターネット接触が、反日意識を高めるという影響も認められなかった。新聞報道の内容分析からは、2005年の新聞報道は、日中関係を歴史認識との文脈で多く取り上げているこがわかった。また、日本でのアンケート調査の結果からは、日本人の反中意識も、メディア接触の量によっては説明することはできないことがわかった。今後はこれらの分析を精緻化するとともに、調査データの分析だけでなく、時系列変化を考慮に入れた日中間の相互的な影響過程をモデル化することが必要である。
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