本研究の目的は、フィジーの伝統的農漁村において家計・共同体調査を実施し、特に血縁関係をベースとした社会ネットワークとグループの様々な役割について検証することである。太平洋島嶼国における、初めての本格的家計調査に基づくミクロ実証研究である。平成15年度、17年度の2回にわたり家計・共同体調査を実施し、家族構成、教育、健康、資産、生産、所得、所得移転、サイクロン被害等に関するデータを収集した。これまで研究が進んでいない様々な問題に関して、調査データをもとに計量分析を行い、次のような問題に関して新しい知見を導くことができた。(1)災害援助の村内ターゲッティング:リスク・シェアリングとの連関と特権層による搾取の問題。(2)自然環境が持つ自己・相互保険機能:小規模沿岸漁業と森林資源を使った手工芸の比較。(3)サイクロン被害に対する儀式を通じた保険機能とジェンダー:リスク・シェアリングにおけるジェンダー格差の問題。(4)所得移転におけるネットワークとグループ:対家計移転と対グループ移転の比較、利他主義、クラウディング・アウト、特権層による搾取の問題。(5)労働者海外渡航斡旋詐欺被害の実態と影響:被害者の特色、被害の理由、被害が所得移転へ及ぼす影響。分析結果をもとに5本の論文(海外学術雑誌出版予定1本、投稿済2本、投稿準備中2本)を作成した。また、自然災害、災害援助が引き起こすリスク・シェアリングのクラウディング・アウトの問題、血縁社会における所得の不平等、生業の多様性等に関しても分析を行った。
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