財産と所有に関する歴史資料はその存在形態において決定的な地域差があることを昨年度は明らかにした。第二年度は、昨年度の二度の調査に引き続き、第三次調査として、平成17年9月6日から13日にかけて、スイスで開催された国際研究集会を機会に、各地の資料状況をさらに調査した。また、第四次調査は、財産管理の詳細について、平成18年2月27日から平成18年3月22日にかけて、ゲッティンゲン・マックスプランク歴史学研究所を文献調査の拠点として、ヘッセン州立歴史学局ならびにヘッセン国立文書館等での調査を行った。今年度におけるこれらの調査の成果としては以下の点が挙げられる。 1.18世紀に租税の公平さのために行われたヘッセン州の村落もしくは都市の調査の記録は、地域の包括的な自然ならびに社会的な資源調査であった。この地域資源の総合的把握は、個人所有に関する遺産目録とは全く異なった財産把握の仕方であり、この資料の存在は近代移行期の財産と所有に関するこの調査の新たな発見となった。 2.また、ヴッパータールの商人の遺産目録のさらなる検討から、このヘッセン州との経済的関係が明らかにされ、広域の市場経済化と財産管理のあり方との相互関係が明らかになりつつある。つまり、市場経済化は、遺産目録等の資料の存在に関する地域性にも反映しているのではないかという仮説が提示された。 なお、比較検討のための情報収集を兼ねた学会発表に関しては、平成17年5月の社会経済史学会、同月末の比較家族史学会、7月にシドニーで開催された国際歴史家大会、11月アメリカ合衆国で開催された第30回社会科学歴史学会、さらに平成18年3月末にアムステルダムで開催されたヨーロッパ社会科学歴史学会などにおいて、当面の研究成果を発表した。その際、本研究テーマに関連する諸研究者の意見を聞くとともに、今後の研究計画の調整をおこなった。
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