昨年度までに研究成果として提示した「遺産目録等の資料の存在は、ヨーロッパにおける市場経済化のあり方と密接な関係があるのではないか」という仮説に基づいて、本年度は、現在、確認されている年齢記載のある住民台帳において、16世紀後半という最も古い年代のものが残されている南ボヘミア(チェコ)での資料調査を重点的に行なった。本年度の研究成果をまとめると以下の通りである。 1.南ボヘミアには、世界的なレベルでも貴重な資料が存在することが発見された。一つには、住民把握の論理から来るものであり、従来、近代移行期には、センサスタイプの資料はヨーロッパには存在しないと考えられていたが、それが誤りであることが明らかとなった。17世紀後半から19世紀中葉にかけて、領地全体の住民調査が毎年行なわれ、その膨大な資料がいくつかの領地で残されていた。また、それだけではなく、遺産目録等、財産に関係する資料も合わせて存在することが確認された。 2.上記の膨大な資料群は、チェコの歴史人口学者ならびに家族史家にはすでに知られていたものであった。しかし、その知見は、チェコ内部に留まっており、また、膨大な資料群であるために、個別の歴史家では解読ならびに分析が不可能であり、実際のその資料の詳細な調査は今まで行なわれていなかった。その最初の調査を今回行ない、新たな研究プロジェクト立ち上げの基盤整備を行った。 3.本年度は、チェコでの調査を重点的に行なうために、その準備期間を設定し、チェコの家族史・歴史人口学者であるヨゼフ・グルーリヒ氏との綿密な連絡調整の上で、調査を行った。また、今後の研究プロジェクトの立ち上げの目的も含めて、南ボヘミア大学の歴史学部で、現在の研究成果に基づく講演を行ない、南ボヘミア大学の学長であり、近世史家でもあるバクラフ・ブジェック氏とも今後の持続的な研究協力を確約に成功した。
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