近代移行期の財産と所有に関する海外学術調査の研究成果は以下の点にまとめることができる。 1.分割相続地域と一子相続地域において、歴史資料のあり方が決定的に異なる。遺言書あるいは婚姻の際に遺産目録が体系的に作成されたのはドイツではヴュルテンベルク地方などに限られる。 2.18世紀に租税の公平さのために行われたヘッセン州の村落もしくは都市の調査の記録は、地域の包括的な自然ならびに社会的な資源調査であった。この地域資源の総合的把握は、個人所有に関する遺産目録とは全く異なった財産把握の仕方であり、この資料の存在は近代移行期の財産と所有に関するこの調査の新たな発見となった。 3.チェコ(南ボヘミア)のチェボーニュ国立地方文書館所蔵の史料、特に人口関係資料は非常に貴重なものであり、今回の調査における最も大きな発見と言ってよい。第二次ライプアイゲンシャフト(体僕制)の地域として知られる同地域であるが、17世紀半ばから19世紀半ばにかけて、毎年作成されたセンサスタイプの史料が残されており、またその史料と連動して、財産関係に関しても詳細な遺産記録簿が残されている。 4.これまでの資料調査の過程で明らかにされて来たことは、近世期つまり近代移行期においては、国家の官僚制化の過程がそれぞれの地域社会において、実に様々であり、その結果、膨大かつ多様な史料群が財産と所有に関しても残されているということである。つまり、近代社会における通常の私有財産だけではなく、「財産」に関する多様な把握の仕方が存在した。 5.この財産把握のあり方の多様性は、「財産」そのものをどのように捉えているかという財産の内容が反映していると同時に、それは国家の意志と目的と民衆の意志と目的とのせめぎ合いの中で生み出されたものであるということである。つまり、「財産」に関する史料のあり方は、その地域の特色として把握できることが明らかとなった。
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