1970年代のアメリカにおいて、古代ギリシャ以来続いてきた医療思想に、革命的変化が起こった。医師の専権体制とパターナリズムとが疑問視され、ともすれば医師の操作の客体とみなされてきた患者の、「自己決定権」が主張され、インフォームド・コンセントが不可欠とされるにいたったからである。本研究は、このような医療思想革命のもとで、医師役割・患者役割にどのような変化が生じてきているか、それが21世紀にはいってどのように発展してきているのかを、実態調査によって明かにしようとするものである。 そのため本年度は、収集した文献資料を分析するとともに、カリフォルニア大学ロサンジェルス校の医療センターにおいて、実態調査をおこなった。その結果、(1)アメリカの病院には、生命倫理学者や医療社会学者、医療ソーシャル・ワーカー、心理学者、看護師、薬剤師、フィジカル・トレーナーなどの、医師以外の専門家が協力しつつ役割を果たしていること、それゆえ(2)患者の治療に責任をもっているのは単独の医師ではなく、医療ティームとなっていること、それゆえ医師役割に大きな変化が生じていること、(3)とくに看護師の役割が大きくなってきていること、同時に(4)慢性疾患が増大し、ガンのような深刻な病気も、医療技術の飛躍的進歩にともなって、5年生存率が大きく上昇したため、患者役割にも大きな変化が生じてきていること、とくにパーソンズの病人役割概念の構成要素のうち、回復に努力するという患者の義務に、無視しえない変化が見られ、むしろ(5)患者が病気とつき合って「命の質」を高めることが強調されるようになってきていること、この意味で(6)患者間のセルフ・ヘルプ・グループの意義が大きくなってきていること、が確認されつつある。引き続き来年度、集中的な実態調査によって、これらの諸点の裏づけをおこなたいと考えている。
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