研究課題
基盤研究(B)
北西ケニアのカクマ難民キャンプ周辺では、80年代後半から、「糞肛門」という新しいカテゴリーの病気が流行した。腹部膨満感や便秘、血便を主症状とする、この病気は、80年代の干ばつとその後の難民キャンプ依存による食生活の変化により一般的になったと考えられる。キャンプ周辺住民を対象に、平成16年8月-9月にかけて、食生活や病気経験についての聞き取り調査をおこなった。また、占いや呪いといった別種の対処についても聞き取りをおこなった。難民キャンプと住民とのコンフリクトに関しても聞き取りを実施。2004年に両者の衝突があった。以下、「糞肛門」を中心に今年度調査の目的・方法・結果・考察・展望を記す。目的:1)「糞肛門」の羅秒状況、2)治療者の治療法と病気観を把握する。方法:モデルとなる10家族と6名の治療者への聞き取り。施術場面の観察・録画をおこなった。結果:1)調査前1年以内に、「糞肛門」にかかった家族員がいたのは7家族であった。2)家族内に施術者や患者がいる場合には、「治療されていないが、病気がある」と家族全員が潜在的患者とみなされる傾向がある。3)「糞肛門」は国境付近にいた施術者が襲撃や干ばつによって町部へ移動したことによって伝えられた病気である。4)施術場面では、施術者は指先で腸をしごきながら、「からまった腸をまっすぐにする」ように働きかけていた。身体内部の様子を触覚で実体化している。5)「糞肛門」は既存のカテゴリーである「足萎え」と重ねて理解されている。治療では「足萎え」と同様、「風」〔肝炎様の症状を示す〕病の治療のなかに組み込まれている。考察・展望1)「糞肛門」は他地域から治療者とともに80年代に伝播した病気カテゴリーである。2)既存のカテゴリーと融合して、トゥルカナに定着しつつある。3)食生活の変化と施術者によって、トゥルカナの身体が書き換えられる過程にある。4)トゥルカナの人々は症状や身体の仕組みを身振りや杖などの道具で表すのが得意である。言語表現とともに、かれらの身体的、道具的表現に着目すると、身体観や症状知覚をよく理解できる。今後の調査に反映させていくつもりである。また、地域を変えての比較調査が必要である。
すべて 2004
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遊動民-アフリカの原野に生きる(田中二郎・佐藤俊・菅原和孝・太田至(編著))(昭和堂)
ページ: 466-491
ページ: 492-514
遊動民(ノマッド)-アフリカに生きる(田中二郎・佐藤俊・菅原和孝・太田至(共編))(昭和堂)
ページ: 364-392
Proceedings of the 2004 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium, III, Geoscience and Remote Sensing Society
ページ: 1547-1550
Displacement Risks in Africa
ページ: 315-337