研究課題
ここでは、病気対処を中心に実績内容を記述する。背景と目的北西ケニアのカクマ難民キャンプ周辺では、80年代後半から、エオシンアガチン(糞肛門)という新しいカテゴリーの病気が流行した。腹部膨満感や便秘、血便を主症状とする、この病気は、80年代の干ばつとその後の難民キャンプ依存による食生活の変化により一般的になったと考えられる。本年度は地域差をみるため、対象地域を広げ、カクマ周辺の本病の治療者にとどまらず、他の地域の治療者16名の治療場面の観察、ききとり調査をおこなった。地域は、ケニア幹線道路A1沿いに北からロキチョキオ、カクマ、ロドワ、ロキチャーである。結果1.カクマにおいてエオシンアガチンとよばれるこの疾患は地域によって呼称がちがう。たとえば、ロキチョキオ、ロドワでは、ロウシンチンであり、ロキチャーではモルアリオンという。とくに、モルアリオンには他民族から伝播した可能性がある。2.治療者は16人中8人が流入した時期は異なるが、干ばつや他民族の襲撃による流入民であった。3.マッサージにも2種類、折れ曲がった腸をまっすぐにし、腸のなかの固まった糞を排出するマッサージと、乾いて折れ曲がり、心臓にかぶさった腸を下におろし、もとの場所にもどすマッサージである。カクマ以外の地域では、もとの場所に戻すタイプのマッサージが優勢であった。もとの場所に戻すタイプはウガンダのカラモジョンの人びとの病気といわれている。考察これらの知見は、エオシンアガチンが1980年代の干ばつ時の人的移動によって構築された病気である可能性を示唆している。すなわち、エオシンアガチンは、干ばつによる社会変動や移動によって町に集まってきた人びとが生計をたてるためにおこなったマッサージによってつくられたということである。これはたんに食生活の変化に対応した病気カテゴリーの形成にとどまらず、社会変動にともなう文化変容とみることができよう。
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