本研究により、ロシアとカザフスタンで90年代末に始まった農業・食品複合体の垂直統合プロセスが、投資家の頻繁な退出と参入を伴いつつ継続していることが確認された。同様な動きはウクライナでも進みつつある。 いずれも1990年代に土地改革、農場私有化などの改革を実施する一方、農業企業の多くが事実上破産状態に陥ったという共通の制度的・構造的特徴を共有する。市場経済諸国に見られない特異な形をとった垂直統合現象は、こうした歴史的・制度的条件に規定されたものである。これに対し、改革を殆ど実施しなかったベラルーシでは垂直統合は殆ど見られない。 穀物、油脂作物、鶏肉、豚肉などの分野で垂直統合の諸条件が分析され、マクロ経済環境の好転、内外市場での農産物価格上昇、関税割当制などの保護的貿易措置の結果、農業への投資誘因が強まることが明らかにされた。これらの要因が最も顕著なのはロシアであり、垂直統合は範囲・規模において旧ソ連諸国の中で抜きん出たものになっている。また、調査対象国はいずれもWTO加盟を近々実現しようとしているが、当面は現在の国境措置が維持され、国際的な農産物価格高騰という条件も加わり、このプロセスがさらに進むと予想される。 垂直統合は短期的には生産回復や近代化を促す主要なメカニズムとして働く。しかし、農業生産組織は自立性を失い、農民は無産労働者化し、市場価格の上昇による余剰は投資家に移転する構造が生まれている。マクロ経済条件が悪化し市場価格が低下すれば、投資家の多くが退出すると予想され、長期的に持続性のある農業の発展形態とは言い難いことが確認された。
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