研究課題/領域番号 |
16403011
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉本 敦子 北海道大学, 大学院地球環境科学研究院, 教授 (50235892)
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研究分担者 |
大手 信人 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 助教授 (10233199)
香川 聡 北海道大学, 森林総合研究所, 研究員 (40353635)
石井 吉之 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (40222955)
一柳 錦平 海洋研究開発機構, 地球環境研究センター, 研究員 (50371737)
徳地 直子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教授 (60237071)
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キーワード | 炭素固定 / タイガ林 / 永久凍土 / 水循環 / 光合成 / 年々変動 / 生態系 / 生産量 |
研究概要 |
冬季の低温にわずかな降水量と厳しい気候条件にもかかわらず、北東ユーラシアにはカラマツが優占する立派な森林が存在している。高緯度地域は将来の地球温暖化で最も大きな変化が予想されている地域で、この森林の現在と過去の解析は、地球の将来を占う上で極めて重要である。この地域おける植生は、夏の降水量の大きな年々変動とそれに伴う土壌水分の変動の影響を受ける。このような厳しい環境に適応・応答し、植生の炭素固定能が年々どのように応答し、変動するかを明らかにするため、ロシアヤクーツクにおいて7月下旬〜8月下旬に現地に滞在して以下のような観測およびサンプリングを行なった。 (1)2006年の夏も、土壌水分は昨年来の雨により極めて湿潤な状況が続き、土壌の乾燥は進まなかった。水循環に関する観測では、土壌水分の測定、および、植物中の水の同位体比の測定を行った。土壌サンプルの持ち出しができないため、土壌をサンプリングして水を抽出するのではなく、吸水性の高いスポンジを土壌に埋めて、上部から浸透してくる水をサンプリングすることとした。 (2)カラマツのリターフォール量(落葉量)の観測 (3)カラマツ枝・葉のサンプリングおよび炭素同位体比の測定 また、植物が光合成で獲得した炭素のアロケーションを解明するために行ったトレーサー実験の植物個体の分析を行ない、以下のような結果を得た。 (4)6月の光合成産物は、比較的速やかに年輪形成などに使用されるのに対し、7月、8月の光合成産物は、翌年まで貯蔵されたのち、葉の形成や幹の生長に使用されることがわかった。この結果は、上記の葉の炭素同位体比の分析から得られた結果(前年の土壌水分を反映している)と一致し、カラマツの成長が、土壌水分の変化を通して、年々の変動を示すことを示唆している。 以上の結果は、カラマツが厳しい環境に適応した応答であると言える。好ましい条件の時に活発な光合成を行って炭素を固定して体内に貯留し、翌年の光合成器官(葉)や伸長に利用している。つまり、年々大きく変動する環境に適応し、乾燥した悪条件下でも融雪水が利用可能な初夏に光合成を可能で、炭素循環の視点から見ると、固定量を安定化するプロセスの一つであると言える。
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