研究概要 |
旧ソ連のセミパラチンスク核実験場では、1949年以来450回以上の核実験が行われ、それによって数十万とも言われる周辺住民が長期間にわたって低線量率で外部および内部被曝を受けてきた。この研究の最終目標は、セミパラチンスク核実験場周辺住民の放射線被曝線量体系の構築と健康影響研究で、データベース構築による長期の低線量被曝のリスク推定である。このため、被曝線量評価を重点的に行なった。 本研究では,被害の最も大きいと言われているドロン村で、広範囲で土壌試料を採取し、最大の被害を及ぼした1949年の核実験の放射性雲のセンター軸、幅などを評価しモデルによる空気中線量を推定した。また、核実験場周辺集落で亡くなられた方の人体試料中の放射能の測定を行ない、以下のことを明らかにした。 (1)ドロン村の空気中線量について、これまでモデル計算値(1-2Gy)と緒外国研究者らのレンガを用いたTL法での評価値(0.5Gy)で食い違いがあり、その原因が大きな問題となっていた。今回、ドロン村を中心に広範囲で採取した土壌試料について、残留しているPuおよびCs-137蓄積量の測定を行ない、その分布などから放射性雲の通過センター軸や幅の再検討を行なった。その結果、当時の放射性雲の広がりは狭く、ドロン村はセンター軸から約1km程度離れていることが明らかになり、これをベースにしたモデル計算によりドロン村集落内の空気中線量を0.5Gyと推定した。 (2)人体試料については,骨中の全Puが1955年での一回吸入に由来すると仮定すると、40年間での実効線量当量は0.2mSvと試算された。またウラン(天然U由来)については、連続経口摂取の仮定で60年間の実効線量当量を0.1mSvと試算した。 (3)劣化ウランに関連して、イラクで採取した幾つかの飲料水、尿試料中のウラン濃度および同位体比の測定を実施した。結果として、劣化ウランの明らかな汚染は検出できなかった。
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