研究課題
水中生物の生態観測は、観測者である人間が容易に水中に滞在できないことなどから困難な作業である。水槽で飼育できる小型生物ならばまだしも、鯨類のような生物の観測は難しく、その発見すら容易でない。しかし、現代の電子技術、ブイ技術、自律型海中ロボット技術および通信技術の進歩は、そこにこれまでにない新しい手法を導入・構築することを可能とした。本研究では、水中生物が発する音に着目し、これを利用して生物を同定し、それを自動的に観測できる音響装置を用いたシステムを研究・開発し、実際の調査観測によりその有効性を検証していくことを目指している。具体的なターゲットは、80〜160kHzの高周波数の鳴音を持つ小型歯鯨類、特に近年の都市化や環境汚染により絶滅が危倶されている中国の揚子江カワイルカ、インドのガンジスカワイルカなど世界の河川に棲息するカワイルカ類である。しかし、揚子江カワイルカについては、現在、ほぼ絶滅したといわれ、観測できないため、同様の高周波数を持つガンジスカワイルカの観測を中心に進めることで、揚子江カワイルカにも応用できる観測システムの構築を目指し、インド工科大学デリー校やWWF-Indiaそしてオリッサ州のチリカ湖管理局(CDA)などインド側との協議、2004年度にはセミリアルタイム自動音響測位装置を開発し、それを用いて日本でハンドウイルカ、スナメリの観測をおこない、装置の有効性を確認した。2005年度にはチリカ湖に棲息する希少水棲小型歯鯨類であるカワゴンドウの音響調査をおこなうなど実際の現地観測活動へと向かった。最終年度となる2006年度は、2005年度のチリカ湖でのカワゴンドゥの音響調査の成果が認められ、年度初めの4月初旬にオリッサ州の河川で保護された一頭のガンジスカワイルカの観測実験をその保護水域でおこない、これまで解析により、12°という極めて狭いビームフォームの在り方など、その特異な音響特性や水中行動を解明してきている。また、続いて2007年2月、ガンジスカワイルカの保護・探索活動に向けてガンジス川の河川環境を把握するための予備調査を、WWF-Indiaと共同でデリー近郊のナローラにおいておこなった。今後は、ガンジス川の厳しい河川環境とガンジスカワイルカの音響特性を考慮した観測装置の研究開発が期待される。カワゴンドウについては、浅海域の汽水湖という特殊条件を考慮し、浅海域の濁った水中環境に棲息するカワゴンドウの長期モニタリングに特化した、水中局、陸上局から成る全自動リアルタイム自動音響観測ステーションの構築をおこない、プロトタイプのシステムを開発して、2007年1月に観測を開始した。今後は、現地での固定の観測基地の建設、通信システムの確立そしてチリカ湖での観測状況の世界への情報発信など、さまざまな発展が期待されている。なお、本研究課題を推進する過程で、代表者の所属する東京大学生産技術研究所では、CDAおよびWWF-Indiaの双方と研究交流協定を締結、小型歯鯨類に関して一層緊密な共同観測態勢を進めていくことを確認している。
すべて 2007 2006
すべて 雑誌論文 (9件)
2007(平成19)年度日本水産学会春期大会要旨集
ページ: 195
The Journal of the Acousitc Society of America (Proc.Fouth Joint Meeting of Acoustic Society of America and Aoucsitec Society of Japan) Vol.120,No.5
ページ: 3228
ページ: 3014
日本船舶海洋工学会平成18年秋季講演会講演論文集
ページ: 23-26
海洋動物の音響観測-海洋音響学会 : 声を利用した海洋生物の音響観測部会告書-
ページ: 2-36
Proc OCEANS'06 Singapore (CD-ROM)