研究概要 |
低地フタバガキ林の「一斉開花」とは,数年に一度林冠に優占するフタバガキ科樹種の他さまざまな植物が同調して大量開花・結実する現象である.一斉開花は東南アジア熱帯に特異であり,生物学的にも森林の保全と更新という点からも重要な現象である.本研究の調査地のランビル国立公園では10年以上にわたって植物フェノロジーと昆虫群集動態の観測が行われており,東南アジア熱帯では他に例をみない.本研究の目的は,観測の継続に加え,生態調査及び遺伝解析から「一斉開花は動物-植物相互作用に関連した2つのメカニズムによって生物多様性を促進している」という仮説を検討することである.本年度は、ライトトラップで捕獲されたハムシの個体群動態の論文をまとめ掲載された。訪花性ハムシ数種では開花期に著しく増加した種もみられたが、反応はさまざまで、確率的プロセスによると考えられる変動も小さくなかった。そのことから、多くのハムシは非一斉開花期においてはそれと無関係に咲く花や新葉などを利用し個体群を維持していると考えられた。重要な長距離送粉者である花蜜食コウモリの動態と植物の関係をあきらかにするため、カスミ網を用いて定期調査を行った。多くの花蜜食コウモリは果樹園など人の手が入ったハビタットに主に生息していることがうかがわれた。これについても、すでに論文として投稿済みである。また、小型哺乳類についてベイトトラップで密度の推定を行い、開花・結実フェノロジーとの関連を調べてみたところ、大きな増減があり、それはほぼ結実量で説明できることがわかった。本論文も国際誌にすでに掲載されている。
|