今年度は、8月28日〜9月2日に加藤 真、川北 篤、奥山雄大の3名を、そして10月19日〜28日に瀬尾明弘と青木京子の2名を台湾に派遣し、植物及び食植性昆虫の材料採集を行った。また日本国内でも活発に植物および食植性昆虫の材料採集を行った。次にこれらの材料を解析して、今年度に得られた具体的成果について述べる。これまでの我々の研究によって、石垣島や西表島など八重山諸島産のツワブキおよびボタンボウフウで見出されていた遺伝的特異性が台湾集団との遺伝的交流によるものかどうかを解明するために、今回は、台湾北部東部ならびに蘭嶼に生育する6集団(それぞれの種で3集団)から植物材料の採集を行った。以前に採集していた台湾北部集団とあわせて、それぞれの種で5集団のサンプルが得られた。採集したサンプルは実験室に持ち帰り、アロザイム多型解析ならびに葉緑体DNA塩基配列多型解析を行った。その結果、ツワブキのアロザイム多型解析の結果では、台湾北部の集団は、八重山諸島集団とも沖縄諸島以北の集団とも、遺伝的に大きく分化していた。一方、蘭嶼集団は沖縄・奄美諸島集団と高い遺伝的類似性をもつことがわかった。葉緑体DNAの解析でも同様の結果が得られた。ボタンボウフウにおいても、アロザイム多型解析の結果は、台湾北部、東部および蘭嶼の集団は、八重山諸島の集団と遺伝的に大きく分化していた。したがって、八重山諸島集団で見られた遺伝的特異性は、台湾集団との遺伝子流動によるものではなく、これらの地域が長期間、他の地域から隔離されてきたことによると考えられた。一方、蘭嶼の集団は、他の台湾集団とではなく地理的に離れた奄美や沖縄諸島の集団と遺伝的類似性が高いことが示された。蘭嶼が最近まで火山活動をしていて植生が全くなかったことを考慮すると、これらの種の蘭嶼集団は奄美・沖縄集団からの種子分散によって形成された可能性が高い。
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