タイ国ナコンパトム県ノングールアム村では、従来サトウキビやキャッサバの生産が主だったが、灌漑水路の整備、タイ国農業省の指導、日本商社の技術導入によって耐暑性アスパラガス生産が導入され、いまや日本のアスパラガス輸入量の約50%をこの村が供給するまでになった。アスパラガスは冷涼な気候を好みこれまでは年1回の収穫であったが、耐暑性品種の導入によって年4回収穫することが可能になった。アスパラガスはもともと多量の施肥を要求するが、周年収穫するため化学肥料の施用量は1haあたり窒素で1000kgリン酸600kgにも達する。収穫物による窒素とリン酸の持ち出しは1%程度なので施用された化学肥料のほとんどが環境に残留していると見積もられた。土壌を深さ1mまで採取し窒素、リン酸を定量したところ、窒素の残存量は10%程度で、残りの窒素は行方不明であった。そこで村の井戸26本から井戸水を定期的に採取し窒素成分を測定したところ、日本の環境基準である46ppmを超える硝酸イオンがほとんどの井戸から検出され、施肥されたかなりの部分が地下水に溶脱していることが判明した。しかしこの村を流域とする河川水の硝酸イオン濃度は低く、河川に到達した硝酸イオンはホテイアオイやヨシなどに吸収されていると推察した。井戸水中の硝酸イオン濃度は変動したが降雨量や季節による周期性は見られなかった。一方、リン酸はほとんどが土壌に蓄積していたが、特に地表部20cmにすべてのリン酸が集積しており、一部のアスパラガスではリン酸の過剰に起因すると考えられるマグネシウム欠乏が発生していた。今後は地域のバイオマスに再吸収された窒素をアスパラガス栽培に利用したり、アスパラガスを吸肥力のつよいサトウキビと輪作することによってアスパラギス栽培地域からの植物栄養素の漏れを最小に出来ると考えた。
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