研究概要 |
「トリのグリオーマ so-called fowl glioma」はその原因と病態が不明であった疾患である。申請者は本疾患の国内初発例を発見し,本疾患がA型トリ白血病ウイルス(ALV-A)感染症であることを明らかにした。本研究課題の目的はトリのグリオーマ原因ウイルス(FGV)のゲノム系統進化と本ウイルス出現の経緯を解明することである。今年度は日本および韓国の鶏から材料を収集し解析を行った。1)2002年からわが国の採卵鶏の頭部皮下に粘液腫などを誘発するALV-A感染症が多発している。2005年これら皮下腫瘍を示した採卵鶏の中にグリオーマが併発した。そこで申請者はこの皮下腫瘍発生鶏群の230羽を検索し,このうち8羽が典型的なグリオーマに罹患していることを突き止めた。このうち3例の脳にはこれまでの症例で出現したことのない腫瘍細胞が増殖していることがわかった。これら腫瘍細胞は脳室近傍で増殖し免疫組織学的には神経細胞および神経膠細胞のいずれのマーカーにも反応しない未分化な細胞であった。以上の成績は採卵鶏に出現したグリオーマは粘液腫など皮下腫瘍を誘発するALVか,あるいはその変異ウイルスによって誘発された可能性を示している。また,疫学的にこれら採卵鶏と日本鶏には接点がなく,採卵鶏由来グリオーマ誘発ALVは日本鶏由来FGVとは明らかに異なる経緯で出現したと推察される。2)韓国の某動物園で飼育されている日本鶏18羽についてPCRによりFGVの検出を試みたが,この群にはFGVが感染していないことが明らかとなった。3)国内初発例が発見された動物園とは関連のない動物園1ヶ所の鶏57羽についてPCRによりFGVの検出を試みた。1羽のみ陽性を示した。4)昨年の研究でインドネシアの肉用鶏に認めた原因不明の腺胃炎に類似する疾患が国内の採卵鶏に発生していることがわかった。
|