パイライトは、塩湿地や沿岸海域の底質中で生成する鉱物で、沿岸域の堆積物や泥炭、褐炭などの植物系化石資源の層間に含まれている。パイライトは、褐炭や石炭の採掘などで大気に触れる状態になると急速に酸化が進み、硫酸の生成により強酸性の酸性硫酸塩土壌が生ずる。これは、全世界的に発生している土壌環境問題であり、早急な対策が必要であると広く認識されている。本研究では、インドネシア中央カリマンタン州(熱帯)およびドイツラウジッツ地方(冷温帯)において共通に見られる硫酸汚染問題を同時に解析することを目的とした研究を行っている。 インドネシア中央カリマンタンの熱帯泥炭湿地では、昨年度の研究より、パイライト由来の硫酸に起因する河川環境の汚染は河口から130-170km上流まで認められること、および、土壌からの硫酸流出は、乾季より雨季に著しく、河川水量が増す雨季における河川水中の硫酸濃度が乾季より高まることがわかったが、今年度は、このデータの再現性に関して再調査を行った。その結果、データの再現性が確認された。今年度はさらに、このような水質汚染に関する住民の意識調査を行った結果、住民の水質汚染や水質変動に関する意識はかなり高いことが判明した。 一方、ドイツ東部ラウジッツ地方の褐炭採掘跡地からの硫酸流出に関しては、本年度は、湖沼への硫酸流入に関する調査を行った。その結果、湖沼への影響には、酸性化する場合と酸性化が起こらない場合の2つのタイプがあることがわかった。すなわち、パイライトの酸化によって生ずる二価鉄が、鉄バクテリアの作用によって酸化されるか否かにより、陸水の酸性化が回避されるか進行するかが決定するであろうとの知見が得られた。 今後は、硫酸の陸水系への影響を継続的に調査し、データの蓄積を行うと共に、酸性化の機構について、鉄とイオウの酸化還元反応の環境中でのバランスに関するデータの収集を行う予定である。
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