研究課題
基盤研究(B)
ミャンマー国では、肝癌の発症は30代前半から見られ、低年齢での肝癌死亡例が多数経験されている。この原因の一つとしてミャンマー国土に高濃度で含まれる鉄の過剰摂取の関与が疑われる。本研究では、ミャンマー国保健省医学研究局(DMR)との共同研究として肝癌試料を収集し、特にHCV陽性例に注目して肝に於ける鉄沈着と肝細胞の増殖及び死の動態とを、鉄過剰摂取ラット実験モデルでの結果も踏まえ解析した。実際には、平成16年12月23日-28日、平成17年12月15日-20日、平成19年2月19日-23日の間、ヤンゴン並びにその周辺都市を訪問し、1)保健大臣、DMR総長をはじめ医学研究局メンバー及びヤンゴン第一及び第二医科大学の学長等との懇談会をもち、本研究推進に向けての協力関係を樹立した。特に平成19年2月20日にはヤンゴンで長崎大学とミャンマー国保健省医学研究局並びに医科学局と学術交流協定を締結した。2)毎年様々なテーマで組織化学実習会を開催し、この3年間でのべ84名にのぼる医師・医学研究者の参加を得て好評を博した。3)HCV陽性のミャンマー人肝癌試料を新たに27例採集・解析した。鉄のPerussian blue染色を行なった所、多くの検体で日本人検体と比較して有意な鉄の沈着が見い出され、Ki-67陽性率と有意な正の相関を示した。4)細胞死に関する検討では、TUNEL陽性率が高い部分では肝細胞にFas並びにFasリガンド発現が認められたが、鉄沈着との有意な関係は認められなかった。5)鉄過剰摂取ラットモデルにて、部分肝切除を行い肝再生過程を検討した結果、肝細胞への鉄の顕著な沈着とDNA合成の促進が認められ、KGF及びKGFR発現の関与が判明した。CCl4投与ラットモデルに於いても、同様の結果を得た。以上の結果は、鉄の肝組織沈着が増殖刺激下で肝細胞増殖を顕著に促進することを示すと共に、ウイルス感染下で肝癌発症並びにその進展に寄与する可能性を強く示唆する。
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