研究概要 |
スリランカはこれまでリーシュマニア症の浸淫地とは考えられていなかったが、本研究により内臓型リーシュマニア症の病原種とされているLeishmania donovani s.l.による皮膚型リーシュマニア症がスリランカにおいて浸淫していることが明らかとなった。1.NNN培養法あるいは皮膚生検材料の塗抹標本により原虫を検出することにより確定診断を行った。病変は顔、手、足の皮膚露出部に多く、直径5~20mm程度の水泡状あるいは結節状の丘疹が多く、丘疹中央部に潰瘍を認める場合もあった。内臓型リーシュマニア症の診断に有用なrK39抗原を用いたディップスティック法では全ての患者が陰性を示した。2.分離された原虫のミニエクソン遺伝子、アクチン遺伝子について一部塩基配列を決定し既知のL.donovani, L.major等8種のリファレンス株と比較解析を行った。その結果ミニエクソン遺伝子の解析では、L.donovaniとPCR産物の泳動パターンが一致した。アクチン遺伝子の解析では946塩基中、スリランカ株はL.majorとは34塩基異なるのに対し、内臓型リーシュマニア症の病原種とされるL.donovani, L.infantum, L.chagasiとは0~4塩基のみ異なった。以上の結果よりスリランカにおける皮膚型リーシュマニア症の病原種はL.donovani s.l.であることが示唆された。3.媒介昆虫の探索のためサシチョウバエの分布調査を行った結果Phlebotomus argentipes及びP.stantoniの存在が明らかとなった。インドにおいてP.argentipesがL.donovani s.l.によるカラアザールの媒介昆虫として知られているため、P.argentipesが媒介昆虫候補種の一つであることが示唆された。本研究で得られた「L.donovani s.l.による皮膚型リーシュマニア症の浸淫」はスリランカだけで見られる特異な新規感染症であり、「L.donovani s.l.は内臓型リーシュマニア症の病原種である」とする従来の学説に修正を求めるものである。
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