研究課題
基盤研究(B)
今回の課題は、野生動物が保有しダニが媒介する新興再興感染症がアジアから日本列島へ拡散(時に隔離進化)してきた経路を、地理病理学や分子疫学の手法で解明するのが目的で、南西日本〜韓国、中国中南部、台湾、タイ、ネパールの現地踏査を基に、"点"としてのデータを"線ないし帯"、として繋ぐことを目指した。以下、主な項目ごとに成果を列記する。1.ベクター関係は、保有病原体にみる大陸と日本列島の強い関連性と拡散経路を説き、ベクター分類の基礎も整理、特にI.ovatusのアジア共通性を分子疫学的に証明した。2.スピロヘータ関係では、ライム病ボレリア種はベクター分布(渡り鳥も)に伴い欧州〜アジア〜日本まで繋がることを、地域や病種ごとに現地調査そして臨床例も基に示した。3.リケッチア関係では、アジア〜欧州までの共通性を視野に、紅斑熱、ツツガムシ病、また新規の感染症病原体までを分離ないしDNA検索を進めて、新種や新記録種を記載しながら症例も発掘した。4.原虫関係では、バベシアのベクターかI.ovatus等であること、また特にヒト感染をみた神戸型は東シナ海トライアングルに広く見られるほか、国内では日本海側中心に散在することを示した。5.そのほか、マダニ保有の血液寄生原虫の多様性が証明され、またヒトの潜在感染が推測されるエーリキアについても大陸との関連が解明されっつある。以上の成果を縦糸横糸にして考察すれば、病原体の拡散招洛が"線ないし帯"として大筋で見えるわけで、各論文等の中では視覚的な理解を容易にするため極力図表により経路を描くことを試みた。これを基に、各地域の自然環境や社会要因まで包括した3次元イメージの画像化を進めるならば、公衆衛生対応上で疫学的有用性を高まると考える。なお、残された課題としては、南西日本を包含する環東シナ海地域での拡散経路の細部の確認証明があろう。
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