研究概要 |
本年度は、マンソン住血吸虫の染色体を顕微ガラス針を使って削り取る方法を開発し、かつ住血吸虫のCO1、lsrDNA及びssrDNAの3つの遺伝子の全塩基配列をはじめて決定し、系統樹解析を行なった。まず、マンソン住血吸虫の染色体標本作製法については、中間宿主感染貝Biomphalaria grabrataからスポロシストを取り出し、コルセミド溶液(10μg/水ml)に20分間浸す。その後、エタノール酢酸(3:1)溶液に移し、組織を柄付き針でほぐす。2-3度エタノール酢酸溶液で洗い、スライドグラスまたはカバーグラスに滴下して標本を作る。カバーグラスに作った標本にある染色体標本から顕微ガラス針を使って染色体を削り取る。削り取ったものをPCRで増幅し、ビオチンラベルして、プローブとする。その結果、7番染色体全体と、性染色体であるW染色体のヘテロクロマチン領域のプローブ化に成功した。他の染色体(1-6番)も現在進行中である。次に、系統樹解析については、これまで、Schistosoma属の起源について、ミトコンドリアDNAのCO1遺伝子、また核リボソームRNA遺伝子の、lsrDNA遺伝子及びITS2の部分塩基配列から系統関係を推定したが、本研究では、CO1、lsrDNA及びssrDNAの全塩基配列をはじめて決定し、その情報をもとにSchistosomatidae科全体の系統関係を推定した。研究材料としてSchistosomatinae亜科6属、Bilharzienae亜科2属、Gigantobilharziinae亜科2属の計10属29種、またアウトグループとして、Sanguinicolidae科の1属を用いた。本研究で決定し解析に用いた各遺伝子の塩基数は、CO1は、1,122塩基対、ssrDNAは1,831塩基対、lsrDNAは3,765塩基対であった。その結果、(Bilharziella(Trichobilharzia,(Dendritobiharzia,Gigantobilharzia)))の系統樹が支持された。また、(Ornithobilharzia+Austrobilharzia)と(Schistosoma+Orientobilharzia)のクレードとのシスターグルーピングが支持され、哺乳類住血吸虫はparaphyleticであることが推定された。また、Orientobilharzia属は、Schistosoma属内に含まれることが明らかになり、Schistosoma属も非monophyleticであると推定された。また、この系統樹では、S.incognitumは、Orientobilharzia属とシスタークレードをつくるので、これらの2種うち、おそらくOrientobilharziaが、アフリカ産グループとS.indicumグループの祖先種であると推定された。Schistosoma属住血吸虫の起源に関する説については、『住血吸虫はアフリカで生じ、インド大陸プレートによってアジアにもたらされ、また南米の住血吸虫は、アフリカ大陸と分離する以前にすでに移動していた。』とするゴンドワナ説と、『住血吸虫はアジアで生じ、アフリカに分布を拡大したが、アジアに残った祖先種は、S.japonicumグループに適応放散した。一方、S.indicumグループの祖先は、アフリカで生じ、家畜とともにアフリカからインドに戻った。』とするアジア起源説の2つの説ある。今回の研究結果は、後者のアジア起源説を支持した。
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