研究概要 |
南・東南アジアの過去の動向から,HIV感染の流行は血液媒介感染により始まることが通例であり,特に静注薬物常用者が汚染注射針を共用する場合に多発すると想定されている.フィリピンは現在HIV感染の低流行国であるが,薬物乱用者はアジアのエイズが蔓延した国々と同様に存在するため,HIV感染の流行が血液媒介感染により始まる危険は十分あると推測できる.この仮説に基づき,セブ都市圏の薬物常用者を含む560名をリクルートしHIV, HCV, HBVなど血液感染の状況を検討した. HCVは主に血液を媒介して感染する.しかも非常に多くの静注薬物常用者が感染していることが知られている.セブ都市圏の静注薬物常用者もHCV抗体の保有率が高く(70%),吸入薬物常用者との間に有為な差がみられた.街路の静注薬物常用者は検討例全員(28人)が抗体保有者であった.これらのHCVは二つのジェノタイプ,1a,2bに分別され,その各々のグループ内のウイルス株は近縁のクラスターを形成していた.また,9症例の検討からは,いずれの個体にも異なるジェノタイプの重感染例はみられなかった.一方,HBV表面抗原の保有率には,静注薬物常用者と吸入薬物常用者との間に有為な差はみられず.また,調査したすべての症例にHIV感染者は全くみられなかった これらの結果は,フィリピンにHIV感染者が少ないことを支持し,一方,侵入したHCVは,限られた感染源から急速に広がっていることを示唆している.HCV感染わ急激な広がりは,血液感染が急速に広がる脆弱さを示し,今は少ないHIVも同様に一気に広がる危険を示唆している.しかし,平成16年度の研究からは,HCVの侵入門戸の特定には至らなかった.さらに観察数を増やし,また異なる時期のHCVを解析し,この地域へHCV株が侵入する経路や早さ,さらにウイルスの特徴について,平成17年度以降検討する予定である、
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