研究概要 |
アジアのHIV感染の流行は血液媒介感染により始まるのが通例であり,特に静注薬物濫用者が汚染注射針を共用する場合に流行の端緒が作られると想定されている.この想定に基づき,血液媒介感染マーカーとしてHCVを採用し,その感染動態からエイズ低流行国のフィリピンにおけるHIV感染の流行の初期像を予測する試みを続けている.2年目の本年度は,検討症例数の増加と侵入門戸の推定につながる端緒の発見を目標に研究を開始した. これまでの累積検討症例(検体)数は合計で1038であり,このうち血液媒介感染のマーカーとして採用している抗HCV抗体の保有者は282名に達した.抗HCV抗体保有者の割合は静注薬物濫用者において高く,離脱プログラムに属さない集団では,平成14年,16年,17年の調査でいずれもほぼ100%の陽性率を示した.この間,抗HIV抗体陽性者は皆無であった. HCV-NS5B領域のゲノム配列についてこれまでに119株の系統樹解析が終了している.初年度と同様,セブ都市圏の静注薬物濫用者のHCVの大多数はGenotype-1a,Genotype-2bのいずれかに属した.また,Blastデーターベースから得られる他国の近縁HCV株とは別のクラスターを形成している.初年度に推定したとおり,セブ都市圏のHCV感染は限られた感染源から急速に広がっていると考えてよいと思われる. 本年度,セブ都市圏で採取された検体の中から初めてGenotype-2aが1株確認された.この株のセブ都市圏への侵入門戸や,今後この株が新たな流行の核になるのかを含めて,HIVの流行に対するHCV株のモニターの有効性の検討を念頭に更に解析をすすめていく予定である.
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