研究課題
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故において、事故時に乳幼児であった世代から甲状腺がんが多発したことはよく知られているが、この詳細なメカニズムについてはまだ明らかになっていない。一方で、事故直後に放射能の除染を目的として鉛をはじめとする重金属類が空中から散布されたことが明らかになっており、すでに鉛の汚染状況についての地図も作成されている。しかしながら、これによる住民の健康影響については、これまで全く調査が行われていない。近年、in vitroにおいて、カドミウムやニッケルといった金属に曝露したcell lineにおける遺伝子不安定性が報告されており、放射線被ばくと同様、金属曝露も遺伝子不安定性の原因となることが示唆されてきている。そのため我々は、主にウクライナ放射線医学研究所との共同研究で、チェルノブイリ原発事故のもう一つの側面として、同地区における金属汚染の実態を明らかにし、さらにこれによる染色体レベルでの変異解明を目的としている。本年度は、昨年度研究代表者の齋藤、及び分担者の高村が平成16年8月にウクライナを訪問してウクライナ放射線医学研究所と共同で高度汚染地区、中等度汚染地区、非汚染地区の3群から尿を用いた3群間における尿中の鉛をはじめとする金属排泄量を比較したが、3群間には鉛をはじめとする金属濃度に差は見られなかった。また、尿中のヨード濃度を評価したところ、現時点においてウクライナはヨード欠乏地域ではないことが示された。これは、ヨード塩の普及によることが大きいと考えられる。現在、同一症例の血液サンプルを用いてポルフィリン体の評価を行うと同時に、次年度には毛髪を用いた微量金属の再評価を行い、結果をまとめた上で、研究者を集めてのシンポジウムを開催する予定である。
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