研究概要 |
2001年から2005年までエジプトタニタ国立がん研究所で切除された膀胱がんを用いて、ビルハルツ住血吸虫感染膀胱癌の発生機序における酸化的ストレスの関与を検討した結果、酸化的DNA傷害のマーカーである8-OHdGの染色性はビルハルツ住血吸虫感染のある扁平上皮癌と移行上皮癌で、感染のない移行上皮癌に比べ有意に増加していた。また、酸化的ストレスのマーカーであるiNos、DNA傷害のマーカーであるssDNA、およびDNA修復酵素遺伝子のoGG1、APE-1の過剰発現を伴っていた。以上から、ビルハルツ住血吸虫症感染に伴う膀胱癌では、酸化的ストレスに伴う持続的な酸化的DNA傷害とそれに伴うDNA修復酵素の過剰発現などが関与して発生している可能性が示唆された。 癌抑制遺伝子であるP53および線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)の発現を検討した結果、感染のある膀胱癌でのp53陽性率は51%であった。また、感染のある膀胱癌においてFGFR-1、FGFR-2およびFGFR-4の発現低下がそれぞれ53%、22%、11%、FGFR-3の過剰発現は43%みられた。なお、いずれの発現も移行上皮癌と扁平上皮癌の間に差はなかった。しがし、P53およびFGFR遺伝子の発現は感染のあると感染のない膀胱癌との間に有意な差はみられなかった。以前、膀胱の移行上皮がんでFGFR-1,2の発現低下とFGFR-3の過剰発現が報告されたが、今回膀胱の扁平上皮がんにおいてもFGFR-1,2,3が同様に過剰発現していることがはじめて判明した。さらに、FGFR-4の発現と膀胱がんの関連性は今まで報告されていなかったが、今回FGFR-4の発現低下が感染の有無にかかわらず膀胱癌に認められたことから、FGFR-4が膀胱がんの発生に関与する可能性が示唆された。以上より、ビルハルツ住血吸虫感染膀胱がんの発生にp53とFGFRの異常発現が関与することが明らかになった。 本研究課題の成果はビルハルツ住血吸虫感染膀胱がんの発生機序の解明のみならず、その予防にも寄与するものと期待される。
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