研究概要 |
本研究の二つの目的のうち、1980-1993年に追跡できた中国鞍鋼製鉄所従業員(退職者含む)コホート(147,062名;男性121,846名と女性25,216名)の再追跡は、製鉄会社分社化、個人識別番号と関連システム刷新のため、断念せざるを得なかった。もう一方の目的である、同製鉄所で用いられていた15種類のばくろ要因のがん死亡リスクの推定については、SMR(標準化死亡比)とSRR(標準化リスク比)を用いて、死亡リスクを評価し得た。すなわち、鞍山市一般人口(1980〜1993年)を標準人口とした標準化死亡比(SMR)では総死亡や主な死因カテゴリー(がん、脳血管疾患など)で健康労働者効果の影響と思われる有意な低下があり、一方のいずれの因子曝露のないブルーカラー群を対照とした標準化リスク比(SRR)では、多くの因子の曝露群で総死亡や死因カテゴリーで有意な上昇が見られた。また、複数の因子への重複曝露、特にPAH(Polycyclic-Aromatic-Hydrocarbons、多環系芳香族炭化水素)が関わるもので、死亡リスク影響が増強されることが、男女共通に認められた。これまでの米国、英国、ブラジルなどで実施された製鉄業コホート調査の結果と比べ、本研究は構成員数が極めて多く、高い追跡率(98.1%)を保ち、女性労働者の追跡結果を含んでいるなどことから、学問的にも高い意義を有しているものと思われる(論文2、学会発表10)。
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