近年、衛生状態の改善による感染症の減少がアレルギー疾患を増加させるという衛生仮説が議論を呼んでいる。我々はこれまでに、バングラデシュ農村部の5〜6歳児でISAAC(The International Study of Asthma and Allergies in Childhood)質問紙法による調査で喘鳴を呈するものが16.2%という高率であることを見いだした。アトピー素因、下気道感染症の既往、抗回虫IgE抗体が危険因子であった。しかし質問紙法による喘鳴群が、気道過敏性を示す明らかな気管支喘息であるかどうかは不明であった。 本研究では前回調査した同じ集団を対象に気道過敏性試験を加えた疫学調査を行ない、前回明らかにされた危険因子を再検討した。 バングラデシュ・マトラブ郡で現地調査を実施した。前回の協力者のうち、その時点で1年以内に喘鳴の既往のあった219名全員(喘鳴2001群)・1年以上前に喘鳴を経験した62名全員(過去喘鳴2001群)・喘鳴既往皆無の122名から無作為に選んだ82名(無喘鳴2001群)に再度今回の協力依頼をした。気道過敏性試験を実施できた参加者の検体から、末梢血好酸球数・血清総IgE・特異IgE抗体・腸管寄生虫感染症の有無を調べた。質問紙法にて最近1年以内の喘鳴の有無・家庭環境等を調査した。気道過敏性試験は、4.5%高調食塩水吸入によりFEV1.0が15%以上減少した場合を陽性とした。 317名の協力を得られた。喘鳴2001群194名のうち114名は喘鳴群(喘鳴2005群)であり、過去喘鳴2005群は71名、無喘鳴2005群は9名で、気道過敏性陽性者はそれぞれ51名(55%)、21名(39%)、2名(22%)であった(同等性検定:ρ=0.008)。気道過敏性陽性者は陰性者に比し、抗回虫IgE抗体値が有意に高かった(Mann-Whitney:ρ=0.008)。
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