研究概要 |
現在、アジアでは動物からヒトに感染するSARS、トリインフルエンザ、ウエストナイルなどが注目されているが、マラリア、デング熱、ウイルス性胃腸炎、エイズなどの感染症が依然として問題となっている。ここでは母子の感染症の分子疫学的研究を、後者の3感染症について主に行った。(1)A群ロタウイルスの血清型は、チェンマイではほとんどが9型であるも、ホーチミン市では70%が1型で10%が9型であった。中国雲南では殆どがG1であった。ロタウイルスの迅速診断キットは諸外国でも有用であった。日本は現在1〜4、9型が混在しており、この数年間のG1の減少が著しかった。(2)ノロウイルスはチェンマイで約30%の下痢便に認め、この率はわが国と同様であった。両国でロタウイルスに続いて高率なのは小児科外来の患者の便であるためで、ホーチミン市では入院小児であるためか頻度は少なかった。(3)タイにおけるHIVの母子感染は、抗エイズ薬を妊娠中から使用するため分娩時の児の陽性率は3%程度で、地域差はあるものの減少してきている。チェンマイではおおむね低感染率を示している。一方、ベトナムでは、分娩時に1回抗エイズ薬を使用し,児にも出産時に使用する程度である。ホーチミン市でHIV陽性の母親から生まれた11名の児のうち8名に感染が成立していた。すべてがサブタイプEで、我々が開発したサブタイプ鑑別用のプライマーは有効であった。ベトナムでは薬剤耐性が数%との報告があり、これらの検体の耐性を調べる必要がある。(4)東南アジアにおいてデング熱は重要な病気である。タイで流行地区の患者宅から採取した蚊からウイルスが遺伝子増幅法で見出された。雄蚊からも見出されたことから卵における感染が推測された。また、患者にはインフルエンザ脳症に見られるような脳幹の症状を示すことがあった。ベトナムでもデング熱の流行が見られた。分子疫学的検査を現在行っている。(5)腸管アデノウイルスは41型が主流であった。(6)HBVリコンビナントの流行実態をタイ、ベトナムで調査した。両国ではほぼ100%がゲノタイプBとCのリコンビナント(Ba)であった。一方、日本ではリコンビナントのないBjが80%であった。両者の臨床所見の違いを調べている。
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