研究課題
基盤研究(B)
我々はHLA遺伝子領域のみならず、ゲノムワイドに約3万個のマイクロサテライト(MS)マーカーを設定し、ベーチェット病患者と健常コントロール群とを比較検討した。この際、患者及びコントロール群を100名ずつ3グループに分け、これらをグループごとにDNAを混ぜて一度に1マーカー100名分のデータを得られるpooled DNA法を採用した。現在までに4染色体の第1次スクリーニングを終了し、9%のマーカーが陽性となった。また、イラン、ヨルダン、トルコ、日本のベーチェット病患者及び健常人コントロールのうちHLA-B*5101を持つ検体を選出し、HLA-B*5101のプロモーター、イントロンを含めた全塩基配列をdirect sequence法を用いて決定した。その結果、HLA-B*5101遺伝子は民族をこえてプロモーター、イントロンを含めた全塩基配列が完全に一致した。このことから、HLA-B*5101遺伝子はその起源が一つである、と考えられた。さらに、HLA-B*5101遺伝子下流近傍に7ケ所の一塩基多型(SNP)が見られた。このSNPのうち、日本人に多型の見られる4ケ所は白人には多型は見られず、一方白人に多型の見られる3ケ所は日本人には多型が見られなかった。中東に位置するイラン、ヨルダン、トルコの検体ではこれら7ケ所の全てに多型が見られた。以上の結果をもとに系統樹を作成すると、イラン、ヨルダンなどに多く見られるハプロタイプが最初にあらわれ、その後日本に多く見られるハプロタイプ、及び白人に見られるハプロタイプがあらわれたことが分かった。以上から、HLA-B*5101は中東から日本などの東側に移動したグループと西側に移動したグループに分れたと考えられた。原田病、サルコイドーシスでは既に報告されているHLA-DR領域に相関が見られた。今後は第6染色体以外の遺伝子でも第1次スクリーニングをすすめていく予定である。アデノウイルス(AdV)、ヘルペスウイルス(HSV)は流行性結膜炎や樹枝状角膜炎の代表的な原因ウイルスであり、その流行の本態、原因などはいまだ詳細が不明で、結膜炎や角膜炎を起こす血清型についてはウイルス自体の性状すら不明なことが多い。近年の変異株の台頭によって制限酵素切断パターンによるPCR-RFLP法の限界が明らかとなったため、我々は新たなAdV迅速同定法としてPCR法で特定領域を増幅後、その全塩基配列を解読し系統解析を行うPCR-Phylogenetic Analysisを開発した。本方法を用い従来から行われている国家横断的なサーベイランスに応用したところ、AdVに関しては中東、東南アジア地域では依然と同じくAdV-8が主体であったが、イギリスマンチェスター地区ではAdV-4が主体であった。これらのウイルス株の塩基配列はすべて標準株とは異なっており、ウイルスDNAの変異が進んでいることが明らかとなった。また、本邦におけるウイルス株の調査においても、数年おきに新たな変異株が出現しておることも明らかとなり、これらの変異と流行との関連においてウイルスDNAのうちファイバー領域の変異がよく相関していることが明らかとなった。
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