研究概要 |
本年度はWebを介して形成される情報社会の秩序を維持する機構の解明に向けて,信頼できる情報流通過程を,情報利用者(発信者と受信者)間ネットワークにおける信頼と不審の伝播過程としてモデル化した. まず,情報の信頼性を判断するためには,情報の意味を抽出,分類精度を上げる必要があることから,従来の統計的機械学習技術を用いてWebコンテンツ記述意味を抽出・分類する実験を行ない,既存技術の利用可能性を考察した. 次に,利用者モデルとして,(1)情報の意味を記号的に表現できること,(2)得られた情報を用いて推論できるというふたつの要件を満たすPat Lanley(スタンフォード大学計算機言語研究所教授)ら開発の認知アーキテクチャICARUSをベースとしたエージェントモデルを提案した.エージェントは必要な情報を認識し,信頼性の可否を推論するための機構として,記号処理推論エンジンと,信頼性評価を数値化して学習する機能を備えている.記号を用いた推論エンジンは,利用者が情報の信頼性を判断する過程を明らかにし,数値処理による重み学習によって,利用者自身が無意識に行っている信頼性評価を再現することができる. また,信頼(および不審)の伝播過程を利用者が形成するマルチエージェント系の強化学習過程としてモデル化を進めている.具体的にはエージェント(受信者)は,他エージェント(発信者)から提供された情報の信頼性評価値を報酬として,他エージェントに対する評価値を強化学習によって推定する.学習が進むと信頼できる情報発信エージェントを選択する政策を獲得し,不審な情報発信者は淘汰されていく枠組みになっている.本モデルの有用性を簡単な経路探索問題を用いて示した.
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