研究概要 |
生物進化の仕組みを自律ロボットの設計に応用する進化ロボティクスが有望であるが,シミュレーションと実ロボットのギャップに起因する問題が無視できない.そこで,本研究では,ホスト計算機なしに複数のロボットが遺伝子情報を交換しながらロボット行動を進化させていく「具現化進化」を実現する進化計算手法を確立し,その実験環境を作成改良した.そして,この具現化進化の実験環境や概念を土台として,人間の行動,社会の現象の進化的理解を目指して以下の5つの方面から研究した.まず第一に,ロボットのグループによる協調的行動を進化的に生成する手法について検討した.その際の設計指針を示し,考えうる18手法に関して単純化したサッカーゲームを題材として比較評価した.第二に,利己的集団における協調の進化を包括的に説明しうると考えられるマルチレベル選択に関して,N人版囚人のジレンマゲームを基に,動的なグループ構造を導入したモデルを構築し,シミュレーションによりその進化に与える影響を検証した.第三に,人間の感情に対する行動主義的理論に基づいてロボットにおける感情を行動のモジュレータの組み合わせとして定義した.そして,環境条件に応じた適応として,そのモジュレータのが創発しうることを進化シミュレーションで示し,感情の進化的な基盤に関する議論を行った.第四に,心の理論の再帰性に関して計算論的モデルを設計し,様々な個体間関係性における再帰のメカニズムに関する進化シミュレーションを行った.その結果,適応度において再帰レベルの奇数・偶数に非連続的な違い存在することや他者との関係性が再帰レベルの適応性の支配要因となることが示された.第五に,進化と学習の動的な相互作用の過程に対して,遺伝子間の相互作用であるエピスタシスが及ぼす影響について知見を得ることを目的として,NK適応度地形を拡張したモデルを提案し分析した.
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