平成17年度までに、視線位置追跡装置を用いて、時系列データに関する被験者実験およびそのデータの定量的な分析を行ってきた。また視覚のみでなく、聴覚や触覚などの異なるモダリティーに対して連続・高速に刺激を与えた場合に生じる「アテンショナル・ブリンク(注意の瞬目)」が人間の情報処理に与える影響について基礎的な実験を行ってきた。 本研究の最終年度である平成18年度には、以下の研究が実施された。 (1)2件の国際学会および1件のオンライン国際学会において、これまでに得られた成果を発表し、同種の研究を行っている他国の研究者から評価とコメントを得た。特に、被験者の置かれた環境によって数学的な判断を含めた意思決定に影響が見られる、という点について、その条件と今後の課題について質問と評価を受けた。 (2)従来被験者に提示してきた時系列データの提示システムを、より現実場面に近づけるために、本研究代表者が別途参加している研究グループによって開発された株式市場シミュレータを用いて、被験者実験を行った。パラメタが多いために、結果は複雑で、本実績報告時にはまだ解析中の点も多いが、多くのノイズを含んだデータに対して、被験者が迅速・安定・正確な判断を行うためには、提示される情報が多すぎないことが必要であるという点については、これまでの結果と一致したものであった。 (3)被験者の判断が正確であっても、最終的な反応操作が誤る、ということが少なからず見られた。この点を解消するために、視覚による時系列提示と手指からの反応に加えて、触覚および聴覚によっても情報を提示する実験を行った。また、被験者の反応に対して触覚によってフィードバックする実験を行った。マルチモーダルな情報提示によっては、被験者の反応は必ずしも改善されず、期待した成果は得られなかったが、触覚によるフィードバックは被験者の誤反応を若干改善した。 以上、人間がノイズを含んだ時系列データを提示された場合に、情報の精度や量はある一定量を超えるとむしろ正確な意思決定が困難になることが確認され、一定桁数で次々と提示される時系列に対する人間の情報処理の限界量が定量的に測定された。マルチモーダルな情報提示は、今回の実験内では必ずしもよりより結果を与えなかったが、誤反応に対する改善の場面では効果をあげる可能性がある。
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