研究概要 |
本研究は動的空間への没入感について次の3つの観点から検討した:(1)感覚系と運動系の統合,(2)異種感覚系の統合,(3)広視野提示.(1)については,視野闘争について視覚と手の運動との関係を調べる実験を行った.左右の眼に異なる動画像を提示し,片方の画像の動きを手の動きと同期させもう片方の画像は0.5秒の時間ずれを与えた.結果は,同期の有無と手の左右に相関関係が見られた.視野闘争は,現象が発見されて以来2世紀にわたり視覚情報処理の初期過程の性質を反映するものとして理解されているが,この実験は運動制御系の関与という全く異なる側面を検討するものであり,意義が大きい.それゆえこの実験は17年度も継続して行う.(2)については,視覚刺激と聴覚刺激の時間順序判断の関係を調べた.聴覚刺激を時間間隔をおいて左右に提示し,その時間間隔に視覚刺激を数十ミリ秒の間隔をおいて提示する実験を行い,聴覚が視覚に影響すること示した.結果は『認知心理学研究』に投稿し受理された。(3)については,没入型バーチャルリアリティ装置を用いた実験を行った。この装置を用いて提示した動画像を数秒間観察し続けていると,体が浮遊し動画像の動きと逆向きに動いているかのような自己運動感覚が生じる.われわれは,この自己運動感覚が発生しているときに2つの視覚刺激をわずかな時間間隔で提示すると,自己運動感覚側の視覚刺激が先行して知覚されることを示した.結果はIEICE Transactions on Information and Systemsに投稿し受理された.
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