コミュニケーションの研究は、それが実際に行われている場における成員の行動様態やインタラクションの探求に重きが置かれて来た。しかしコミュニケーションがうまくいかない場合には、それに参画する各個人が、自分が表現したいことを明確に把握していないことが多々ある。そこで本研究では、各個人が表現したいことを自ら掘り起こし増幅するための方法論を探求することが重要であるという認識から出発した。 昨年度の研究成果により、自己に起こっている「こと」(身体の動き、環境に対する五感、言語的非言語的思考)を自ら意識して言語化する試み(メタ認知)が有効であることを見いだした。本年度は、メタ認知を感性的解釈を必要とする美術表現課題、味覚の表現、身体的動作を伴う運動といった認知行為に適用する実験を行った。実験の目的は、メタ認知が被験者の認知行為をどのように進化させるか、もしくは熟達させるかを分析することにある。味覚実験や美術課題実験では、表現の数だけでなく種類も増大し、次第に表現の質が高まる現象が観察できた。また身体運動の実験では、メタ認知が身体部位への意識変革を促すこと、および、その意識変革と熟達が大きな関連性をもつことを見いだした。 次年度は、メタ認知を触発するような環境デザインを、人、映像、ソフトウェアツールの3面から探求を行い、研究の総まとめとする。
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