コミュニケーション研究において、参画する人が自らの表現を醸成するプロセスの研究はほとんど行われてこなかった.人は、必ずしも表現したいことを明確に意識しコミュニケーションするわけではない.むしろ場において次第に表現が醸成されてくる場合が多い.昨年までの研究成果により、表現を醸成させる手法としてのメタ認知は、美術的表現課題や味覚表現課題において表現量だけでなく種類を増大させ、表現の質を高めることが判明した. 本年度は、感性開拓の様々な課題や、身体的技を向上させる課題において実験を行った.感性開拓課題としては、居心地探究、服飾デザインの探究、風景描写文章表現の模索、絵画表現などを行った.また、身体技獲得課題としては、ダーツ投げ、野球打撃などの実験を行った.身体技獲得プロセスは本研究とは無関係に見えるが、実は深い関係にあることが判明したことも本年度の研究成果である.メタ認知を続けることにより到達する境地は、心、身体、環境の関係性を探ることにある.コミュニケーションの目的のために表現を醸成するプロセスと、認知科学的に同じ構造を持っている. 3年間の研究成果として以下の結論が得られた. (1)メタ認知は、思考、身体、環境に潜む変数と変数関係の発見を促し、問題意識の向上、表現量の増大、言葉にできる部位や事柄の詳細化、質の向上につながる. (2)メタ認知において重要なのは、思考の言語化だけではなく、環境と身体を結ぶ五感を言葉にすることである.特に、聴覚、触覚、嗅覚、味覚など、身体で環境に直に接する様相の意識が重要である. (3)身体運動を伴う課題ではビデオなどの外部計測をメタ認知活性化のツールとして利用する方法論の探究が急務である.身体や身体と環境の関係の中に重要変数を発見することがメタ認知活性化の鍵であり、そのためのツールとしての映像表示ソフトウェアの開発が今後重要になる.
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