本研究は、同時通訳の遂行において、身振り、注視点の移動、息継ぎ、メモ使用等の身体動作が、同時通訳全体の遂行にどのように関わっているか、また、通訳された発話と身体動作の相互関係が、同時通訳技能の熟達化の過程でどのように変化していくかを明らかにすることを目的とする。研究の2年目である今年度は、昨年度までに作成した同時通訳者のプロまたはセミプロレベルの通訳者と通訳訓練生による同時通訳の縦断的なビデオコーパスを用いて解析を始めた。その結果、現在までのところ、以下の2点が明らかとなりつつある。 (1)同時通訳者は身振りを産出するかについて、これまでの観察によれば、プロレベルの同時通訳者の場合、よく準備されたフォーマルな講演の際にはあまり身振りを産出しないようであるが、質疑応答などの、展開が読みにくい状況では身振りを比較的頻繁に用いるようであるということが明らかとなりつつある。 (2)同時通訳授業を受講している初心者の場合、個人差はあるようであるが、身振りを産出することが明らかとなった。身振りをする訓練生の場合、ケーススタディではあるものの、通訳技術の向上や、訳出の際の方略の変化に伴って、身振りの量、規模、種類に変化が起こることも明らかとなった。具体的には、訓練初期では、聞こえてくる句や節を次々と訳すいわゆる即応的な方略を用いていたのが、2年後では、ある程度聞きためてから徐々に訳すという、遅延方略を用いていた。これにともない、初期には類似的身振りが多かったのに対し、2年後ではビートと呼ばれる身振りが多いという現象が観察された。 現在、これらの結果を踏まえ、通訳と身振りにおいて生じた質的な変化が相互にどのように関連するのかを明らかにするため、さらに詳細な分析を進めている。
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