研究概要 |
申請者は平成12〜13年度の科学研究費特定領域研究「先端脳」における研究で、日本語にはなく米語には存在する子音/r//l/に対する脚磁場反応を日米話者から記録した。刺激として合成音/ra/,/la/用いたところ、聴覚野の反応が日米話者間で異なっていた。ところが、母音の持続時間に長短を設けたところ、米国語話者では母音の持続時間の効果が誘発脳磁場波形に明確に認められたが、日本語話者では認められなかった。従がって、/ra//la/に対する日米話者の間に観察された差は必ずしも/r//l/が日本語話者にとって非母語の子音だからではなく、母音に対する処理が日米話者間で異なっているために生じた、可能性がある。言語の音韻構造の構成には母音は中心的な役割を果たす(例外を除いて子音のみを発音することはできない)。日本語は5つの母音から構成されるのに対して、米語は少なくとも11の母音から構成される。日本語話者にとって/r//l/だけではなく米語の母音の聞き分けも困難である。本研究では、申請者による先行研究の知見を受けて、母音知覚の日米比較を目的とした。刺激としては、日本語の母音に含まれる/a//o/および日本の母音には含まれない米語の母音/*/、/ae/を用いた。本年度は日本語話者(右手利き)からデータを収集した。現在までのところ4名の被験者からのデータの解析が終了しているが、いずれの被験者においても母語に含まれる母音のほうが含まれない母音よりも潜時100ms付近に頂点を持つN100mの潜時が遅い、という結果が得られている。この結果は皮質における母音処理の初期段階で母語、非母語の処理に差があることを示唆している。今後、日本語話者からのデータ数を増やすと共に米国語話者からも脳磁場を記録し、話者間の比較検討を行う予定である。
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