研究概要 |
本年度の研究では,いくつかの推定問題において決定論的立場から理論上優れた一般化(もしくは経験)ベイズ手法の導出を行い,応用上の有用性を示した。特に,次の問題において,画期的な研究成果を得ることができた。 1)母数制約下での一般化ベイズ推定量の許容性と非許容性 多変量正規分布の平均ベクトルの推定において,そのパラメータに制約条件が課されている問題を考え,ルベーグ測度を事前分布とする一般化ベイズ推定量がミニマクスになることを示すとともに,許容性と非許容性の条件を明確にした。これは,従来の結果を母数制約という一般的な枠組みへ拡張することが可能であることを意味している。 2)多変量精度行列の推定 共分散行列の逆行列である多変量精度行列の推定は,信頼区間や判別分析などに登場してくる問題で,共分散行列が高次元でデータ数が小さい状況では逆行列の通常の推定方法は一般に不安定になってしまうという欠点がある。そこで代用されるものとしてリッジ型推定量が挙げられるが,リッジ・パラメータの選択方法や推定量の優越性など,ほとんど未解決のままである。 このような高次元データの解析やその取り扱い方などは最近注目されている分野であり,トロント大学のM.S.Srivastava教授らが活発に研究している。本研究では,M.S.Srivastava教授との研究連絡を通して,この問題を扱うための決定論の枠組みを導入し,リッジ型推定量が通常の推定量を優越するための条件を明確にし,そのためのリッジ・パラメータの推定方法を与えた。またそのような推定量が経験ベイズ法から導出できることを示すとともに,その推定量を判別分析に用いたときに誤判別率がきわめて向上することを数値的に示した。こうして,理論的に優れた推定方法でしかも実際有用であるものが得られたことになる。
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