研究概要 |
本研究では,臓器としての生物学的知見が豊富な心臓を対象として,近年急速に解明が進み実現されるようになった,タンパク分子機能に基づく精密な細胞モデルを元に,心筋細胞の配列,組織の微小循環,冠動脈血流,心筋組織の力学的特性に基づいた心臓の3次元拍動モデルを実現する.様々な構成要素や構造を考慮した心臓の3次元有限要素法モデルは極めて複雑になるが,日々蓄積される生物学的知見を導入するため,昨年度は,最新の生物学的知見を導入したモデルを容易に構築し,有効性等を評価するシステムとして,心臓拍動モデルの生成・修正ツールを実現した.本年度は,まず心臓拍動モデルの形式的記述と,実験プロトコルの形式的記述言語としてPSPMLを設計した.次に,心臓拍動の精密な再現に不可欠な血管系のモデルとの連成計算を行うシステムを実現した.一般に血管系モデルは単一ないし複数のコンパートメントを,それぞれ電気回路の受動素子で表現したモデルが用いられることが多いが,左心室モデルとの接続形態として,抵抗のみで接続される血管系モデルと,容量やインダクタンスを含む素子で接続される血管系モデルがあり,後者については連成計算において収束計算が必要になるため,連成システムが弱連成計算で実現できないという問題がある.昨年度実現したシステムでは,いずれの血管系モデルを用いた場合でも精密に左心室モデルとの連成計算が可能であるという特長がある.本システムにより,様々な細胞モデル,左心室モデル,血管系を用いたシミュレーションにおいても,自由に組み合わせを変更して循環動態シミュレーションが可能となった.また,冠動脈血流について,MRIデータより基本的な冠動脈モデルを作成し,血流停止箇所の指定による収縮機能停止領域モデルを実現した.このモデルを用いて拍動シミュレーションを行うことにより,本研究で実現した左心室拍動モデルにおいて,文献で報告されている動物実験データに近い機能停止領域率と駆出率低下率の関係が再現されることを確認した.
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