研究概要 |
1.アルゴリズムの確立 多安定ニューロンのネットワーク(NW)により構成される連続アトラクター力学系の解析的構造を、アルゴリズムの適用が想定されるNW型データの構造を一般的に記述するスケールフリーNWの数学的モデルを舞台に、平均場近似を用いて調べた。パラメータの値に依存して、アトラクター構造は3つに分かれる :a)初期状態に関わらず、全てのニューロンが最大活性を持つ(燃上り);b)連続アトラクターが生成される;c)初期状態に関わらず、全てのニューロンが非活性化される(死滅)。以上から、アルゴリズムを安定に作動させるためには、b)となるようにパラメータ値を設定すればよいことがわかる。 2.関連文書群抽出システムの構築 連続アトラクターを持つ神経回路力学系に基づいて、クエリーを通じて指定した研究トピックに関連する論文群を構造化して抽出し、さらにこれらを可視化するシステムの構築に着手した。平成17年度は、神経科学に関する約10万本の論文の書誌データ(Science Citation Index Expanded, Thomson Scientific提供、加工使用許諾済)から生成された引用関係NWを対象とするシステムを構築し、目論見通り関連論文群抽出が実現できているかどうかを調べた。各論文に多安定ニューロンを対応させ、引用関係をニューロン間のシナプス結合に対応させる。研究トピックをテキスト文で記述する。システムはこのテキスト文と個々の論文のアブストラクトとの間のマッチングの度合いを計算する。このマッチングの度合いを個々の論文に対応する多安定ニューロンの初期活性値とする。このようにして定められた初期状態に対して、NW活性伝播を通じて、連続アトラクターが導かれる。アトラクター状態における非ゼロ正の活性を持つ論文群を抽出文書群として提示し、さらに引用関係を伴わせてそれらをNW様に可視化する。様々な研究トピックについて試してみたが、抽出文書群は関連論文群となっており、それらの可視化は関連論文群の構造(どの論文が主/従であるか・どの論文とどの論文の関係が幹/枝であるか)をよく表すことを確認できた。 3.意思決定に関わる帯状皮質神経活動の解析とモデル化 周波数ヒストグラムを用いてIsomura et al.(2003)が意思決定課題実行中のサルの帯状皮質から記録した「線形的に増加する漸次的活動」に伴うスパイク列を再度解析し、帯状皮質ニューロンが双安定性を示すという従来からの我々の主張を補強した。
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