哺乳動物の大脳皮質を構成するニューロンのうち、抑制性のニューロンは発生中の内側基底核原基において発生し、移動してくることが知られている。われわれはこれらの細胞が、大脳皮質原基で発生する興奮性のニューロンとは異なり、完全無血清培地においても高い移動能力を持っていることを見つけた。したがって、抑制性ニューロンの移動性は細胞が持つ自立的な性質であると考えられる。本研究ではこの移動性が発生のどの時点から生じてくるのかを調べた。 大脳皮質抑制性ニューロンは内側基底核原基において最終分裂をして誕生する。胎生15日のラット内側基底核原基の細胞を培養したところ、この時点ですでに同時期の大脳皮質原基の細胞に比べて著しく高い移動性を持っていた。この移動性は培養中に次第に低下する傾向にあったが、1週間の培養の後にも大脳皮質原基の細胞に比べて優位に高い移動性が保たれていた。また、多孔性の膜を用いたボイデンチャンバーによる走化性試験を行うと、胎生16日内側基底核原基の細胞はEGFに対する走化性が認められたが、大脳皮質原基の細胞には認められなかった。培養皿上の細胞のタイムラプスビデオを詳細に観察すると、細胞が培養中に分裂する場面も見られるが、分裂前の未分化な内側基底核原基の細胞も高い移動性を持っていた。以上のことから、胎生15日の時点で内側基底核原基の細胞は、ニューロンとして分化する以前から大脳皮質原基の細胞とは異なる移動性を獲得していることが明らかになった。
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