研究概要 |
臨床的に治療に応用されたり高次脳機能の解析に用いられている連続磁気刺激(rTMS)の作用機序は、現在まで解明されているとは言えない。本研究の主たる目的は、rTMSの作用機序を解明することである。今年度は、以下の2点に関して研究を進めた。 人での研究としての痛みへの治療効果の分析 正常被験者を対象として、カプサイシンで痛みを誘発したときに、連続磁気刺激がこの痛みの軽減に有効であるかを検討した(Tamura et al., Pain)。カプサイシンの皮下注射で誘発された痛みは、徐々に痛みが軽減して行く経過をたどる。この時間経過がシャム刺激では影響を受けなかったが、連続磁気刺激では有意に早く痛みが軽減した。 次に、レザーを用いた痛み刺激に対するrTMSの効果を検討した(Tamura et al., Neurology)。この痛みは、Aδ-fiberによって伝えられると考えられ、rTMSはむしろ痛みを増強した。従って、rTMSによる痛みの治療では、痛みの種類を検討してから、治療を考えるべきである。 猿でのPETによる研究 猿で、連続磁気刺激の効果がどのくらい持続するかを、PETを用いて解析した(Hayashi et al.)。運動野に5Hz,200発の連続磁気刺激を与えると、少なくとも一週間は持続する効果を、刺激直下だけでなく、刺激部位と連絡のある離れた部位にも誘発することが判明した。 ラクロプライドを用いたPETにより、rTMS時の内因性ドーパミン代謝に関して分析した(Ohnishi et al.,2004)。運動野の5Hz,2000発の磁気刺激により、同側の腹側線条件においてドーパミンの分泌が誘発された。 効果が一週間は持続する事、ドーパミンの分泌を促す事などから考えると、rTMSはある種の疾患に対する治療法として、大いに期待が持てる。来年度はさらに研究を進め、臨床的に有用な刺激装置・刺激パラメータの発見につなげたい。
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