研究概要 |
Feeling-of-Knowing(FOK)とは自分の記憶していることに関する記憶で、メタ記憶のひとつである。今回我々は、被験者に顔写真を提示し、その名前を想起する課題を課した。その際、FOKでは既に確立された想起-判断-再認課題の手法を用いて、顔写真と名前により誘発されるFOKに関する部位を機能的MRI法を用いて検出した。被験者は6段階でFOKの程度を評価し、FOKに関する部位はパラメトリック法を用いることにより、FOKの強さに応じて活動が盛んになる部位を同定した。その結果、主に両側腹側・左背側・両側前頭前野、内側前頭前野、両側上側頭溝近傍、右中側頭回に活動を認めた。前頭前野の活動は我々の過去の一般常識問題を用いたFOK研究に類似していたが、(Kikyo et al.,Neuron36,177-186)、側頭葉の活動ははじめて今回検出された。側頭葉の活動の中心は4箇所(左前上側頭溝近傍、左後上側頭溝近傍、右上側頭溝近傍、右中側頭回)認められたが、そのうち左後上側頭溝近傍の活動は想起の成功時にも認められたが、他の3箇所の活動は想起の成功時には活動は認められなかった。一方、過去の研究から、両側上側頭溝近傍の活動は顔の表情を読み取るなど高次な顔情報処理に関係すると考えられていることから、FOKは高次な顔の情報処理に関連していることが示唆され、しかも、左右の側頭回での役割の違いがこの研究から示唆された。右中側頭回の活動はヒトの職業など意味情報に関する情報処理に関係すると考えられる。一方、心理学の分野では、FOKの元になっている情報は、FOKは想起する手がかり(cue familiarity theory)または想起する対象(partial activation theory)のどちらの情報処理により生じるかについて長年論争されてきた。この実験から、FOKは、少なくとも想起する手がかり(顔写真)の情報処理に関連することが示され、しかも、その情報も単に誰の顔だか判別できるというような顔の構造に関する情報処理ではなく、表情などの高次な情報処理に依存することが示された。
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