研究概要 |
何か言葉を思い出そうとする際,対象となる言葉をすぐには想起できないが,自分が知っているかどうかわかる気がすることがある。この感覚はFeeling-of-Knowing(FOK)と呼ばれ,自分が何を記憶しているかモニターする機能(メタ記憶)と考えられている。我々は以前、一般常識問題を用いてFOKが強くなれば活動も盛んになる部位を特定した(Kikyo et al., Neuron 36, 177-186, 2002)が、本研究ではFOKについてさらに深く調べることが目的である。まず最初に、顔と名前のペアによる刺激を用いてFOKに関する部位を特定した。その結果、ほとんどの前頭葉の活動は一般常識問題を用いたFOK部位と共通であったが、顔と名前のペアによるFOKの場合のみ左右の外側側頭葉に有意な活動を見いだした。これらの部位は以前の脳機能研究により、顔の高次情報処理に関する部位と言われており、顔を見て名前を想起できないがFOKが強いときは、顔の高次情報処理そのものまたはその処理により産生される情報がFOKに関与している可能性を示した(Kikyo and Miyashita, 2004)。また、心理学の分野ではFOKの源になっている情報は言語的な意味情報と言われている。そのため、本研究では記憶の材料として言語的要素のない音楽を用いて記憶に関する研究も行った。その結果、右の海馬と左の背外側前頭前野が想起の成功の際に有意に活動することを見いだした。また、解剖学的に定めたRegion of Interest(ROI)解析により、左右の海馬を比較したところ、右の海馬は音楽の想起の際に左より有意に強く活動することを示した(Watanabe et al., in press)。これらの結果は英文雑誌、学会に投稿し、現在も論文作成中(Kikyo et al., in preparation)のものもある。
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