我々はこれまで、音順序弁別学習が聴覚野へのコリン作動性入力に依存することを明らかにした。この弁別実験では水を報酬として用いている。報酬信号はドーパミン系を介すると考えられるので、本研究では音の時間パタンの学習におけるドーパミン系の関与につき検討し、以下の結果を得た。 1)音順序弁別学習におけるD2ファミリー受容体の関与 ドーパミン受容体はD1ファミリーとD2ファミリーに分けられる。D2ファミリー受容体の拮抗薬であるハロペリドールの腹腔内投与で音順序弁別学習が阻害された。学習により一度上昇した成績に対してはハロペリドールの効果は認められなかった。これらより、D2ファミリーは音順序弁別の学習獲得過程に関与すると考えられる。D2ファミリーにはD2-D4のサブタイプが存在する。D2受容体拮抗薬であるラクロプリドおよびD4受容体拮抗薬であるクロザピン単独では音順序弁別学習の阻害効果ははっきりしなかったが、両者の同時投与で弁別学習が阻害された。これらより音順序弁別学習にD2とD4受容体の両者が関与していることが示唆された。 2)水舐め行動発現におけるD1受容体の関与 D1受容体拮抗薬であるSCH23390は水舐め行動の発現を抑制した。しかし、動物が水舐め行動に慣れた状態ではSCH23390の効果は認められず、この条件下でテストをおこなうことにより、D1受容体の音順序弁別学習に対する関与は少ないことが確かめられた。 3)音弁別学習における聴覚野および側座核へのドーパミン入力の役割 ドーパミンニューロン毒性を持つ6-OHDAを側座核へ投与したラットでは音順序弁別学習や二音弁別が非特異的に阻害された。一方、聴覚野への6-OHDA投与では音順序弁別学習が特異的に阻害された。側座核へのドーパミン入力は音と報酬の連合に関与し、聴覚野へのドーパミン入力は音順序の学習に関与すると考えられる。
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