フェロモンの情報処理を担う鋤鼻神経系をシナプス形成機構解析のモデルとして、in vitroの実験を行うため、ラット由来の副嗅球と鋤鼻器の分散培養細胞からなる共培養系を開発し、以下の点を明らかにした。 1.共培養下で鋤鼻-副嗅球ニューロン間にシナプスが形成されていることを、鋤鼻ニューロンへの電気刺激とカルシウムイメージング法を組み合わせ、薬理学的に検討することによって証明した。 2.鋤鼻系を構成する各ニューロンの細胞分化・成熟過程において、鋤鼻-副嗅球間の相互作用が重要な働きを果たしていることを明らかにした。 (1)鋤鼻ニューロンは、単独培養では決して成熟しない。副嗅球細胞との共存により、細胞内情報伝達系に関わる分子の発現や形態的な成熟を示すようになることが判明した。 (2)フェロモン受容体(候補)ファミリーのうちV2Rファミリーに属する2種類の受容体が副嗅球細胞との共培養によって発現誘導されることを見いだした。 (3)齧歯類では尿中に多種類のフェロモン活性物質が含まれる。共培養下の鋤鼻ニューロンに希釈尿成分を電気泳動的に投与すると、応答して興奮を示すものがあることをカルシウムイメージング法で観察した。この場合も、単独培養では応答性は認められなかった。 項目2のような共培養による変化は、分子形態的にも機能的にも時間経過がよく一致しており、項目1のシナプス形成の時間経過ともよく一致していた。また、共培養下では副嗅球ニューロン側にも変化が認められ、経シナプス的な情報の授受が細胞の変化に重要ではないかと考えた。今後この可能性について検討していきたい。また、受容体の発現誘導現象を見いだしたことから、鋤鼻系の関わる個体識別や交配相手選択の際の嗜好性の発達などに、特定フェロモン受容体の発現調節などが関わっているのではないかと考え、今後この方面に研究を発展させていきたい。
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