本年度はマウスを用いた予備的実験と、日本サルを用いた実験を行った。 1.慢性のマウス標本に、頭を固定した状態で1日1時間の視覚訓練(頭を固定し、正弦波状に動くドット模様のスクリーンを追視させる)を4-5日連続的行い、水平性視機性眼球反応(HOKR)の利得に長期適応を生じさせた。 2.マウスの長期適応と短期適応の関係を長期間にわたって追跡した。1日1時間の視覚訓練を2週間持続的に行い、HOKRの利得を訓練の前後で比較した。訓練を開始した後に4日間までは、訓練前のHOKRの利得は徐々に増加したが、4-5日で一定値に達しその後の10日間は変化しなかった。即ち、長期適応は訓練開始後1週以内にほぼ飽和した。一方、毎日の訓練で生じる短期の適応の大きさは、初日に比べ2日目から3日目までは増加したが、その後はほぼ同じ値だけ増加した。即ち、長期適応が飽和状態になっても、短期適応は影響されず、1日の訓練に見合うだけ生じることになる。この所見は短期適応と長期適応のもとになる神経過程がそれぞれ異なることを示唆する。 3.サルに2xの拡大レンズを装着した状態で1日2時間の前庭訓練(正弦波状に振動する回転台上でレンズを通してドット模様の静止したスクリーンを見る)を4日間持続的に行い、水平性前庭動眼反射(HVOR)の利得の変化を観察した。訓練開始前のHVORの利得は平均で0.65、2時間の訓練で0.77まで増加した。訓練後サルにレンズを装着したまま飼育し24時間後再び訓練をした。4日間訓練を繰り返したが、2-4日目の訓練前の利得は初日の訓練前の値と差が見られなかった。一方、2時間の訓練で増加する短期適応は3日までは徐々に増加する傾向が見られた。この所見はサルのHVORの利得はすでに長期適応が生じて飽和に達しており、訓練によって短期適応のみ生じる状態に達していることを示唆する。
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