昨年度までのプロテオーム解析により、軸索突起の伸長過程で細胞膜小胞のエキソサイトーシスを担う蛋白質の局在変化が明らかになった。そこで平成18年度は、伸長過程にある軸索突起先端部(成長円錐)での膜小胞の輸送とエキソサイトーシスを詳細に解析し、軸索突起の伸長方向と膜小胞の動態に密接な関連性があるか否かを検証した。成長円錐内部の膜小胞を脂溶性色素(FM1-43)で標識してその動態を観察したところ、軸索突起が伸長する方向へ膜小胞が輸送された。また、エキソサイトーシスを担う蛋白質VAMP2(Vesicle-Associated Membrane-Protein 2)が存在する膜小胞の動態を観察したところ、同様に成長円錐が伸長する方向へ膜小胞が輸送された。次に、これらの膜小胞が成長円錐の先端縁近傍(周辺部)の形質膜と融合してエキソサイトーシスされるか否かを検証した。細胞内膜小胞の内腔でのpH値は約5.5であるが、エキソサイトーシスされると細胞外液と混合するためpH値は約7.3となる。VAMP2の膜小胞内腔側にpH感受性蛍光蛋白質を付加して、このpH値の変化をモニターすることで膜小胞エキソサイトーシスを可視化した。その結果、(1)成長円錐の周辺部でVAMP2陽性膜小胞がエキソサイトーシスされること、(2)このエキソサイトーシスと軸索突起の伸長方向には有意な相関があることを発見した。また、破傷風毒素でVAMP2の機能を阻害すると、軸索突起は誘引性因子に向かって伸長することができなくなった。以上、成長円錐での膜小胞のエキソサイトーシスは軸索突起の伸長方向を制御する重要な要素であることが明らかになり、平成16-17年度のプロテオーム解析での成果をサポートする細胞生物学的な結果が得られた。
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