研究概要 |
本研究の最終目的は、大脳皮質・視覚野の生後発達可塑性に関わる組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の役割を解明することにある.昨年度までに、視覚野の興奮性錐体細胞・シナプス後部の形態を共焦点レーザー顕微鏡を用いて三次元的に調べ、幼弱マウス(臨界期)の単眼を4日間遮蔽すると一過性にスパイン数が減少すること、その変化はグルタミン酸脱炭酸酵素の遺伝子欠失変異マウス(GAD65 KO)やtRA KOマウスなど機能的可塑性レベルが低下した動物では生じないことが明らかとなった(Neuron,44,1031,2004).さらに、興奮性シナプス前部の機能マーカーとしてvesicular glutamate transporterを用いた検討から、シナプス前部でも機能的可塑性に伴う微細な早期形態変化が起こることもわかってきた.しかし、tPAの可塑性に対する作用点(tPAの下流因子など)は未だ不明である.そこで最終年度は、tPA KOマウスを用いて、2種のレクチン(WFA,WGA)に結合するタンパク質の発現量を比較した.これらレクチンに結合する主要なタンパク質群(主にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンなどの細胞外基質蛋白質)の発現は正常であった.そこで次に、tPAおよびtPAにより限定分解を受け活性型プロテアーゼとなるプラスミンにより消化される細胞外基質をin vitro実験により調べた.その結果、(1)tPAで直接消化されるミエリン蛋白質(1種類)、(2)プラスミンでのみ限定分解される細胞外基質蛋白質(4種類)、(3)プラスミンで完全に分解されるミエリン蛋白質(1種類)が見いだされた.これらの結果は、発達初期の大脳視覚野における機能、および、形態変化には、シナプス周辺の細胞外基質がtPA-プラスミン経路により修飾される事が必要である可能性を示唆している.
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