研究概要 |
【目的】 上部消化器管に起因する痛みや不快感などは上腹部不定愁訴といわれ、癌や炎症など明らかな病変が伴う器質的胃腸症と、病変が明らかでない機能性胃腸症に分けられる。本研究では、器質的胃腸症のメカニズムをあきらかにするため、実験的胃潰瘍を解析し、機能性胃腸症については、適切なモデルがないので、結腸の痛覚を亢進し過敏性腸症候群のモデルとして提唱されている母子分離ストレスが胃の痛覚に及ぼす影響を調べた。 【材料と方法】 1.酢酸注入法により、SD系雄性ラットに胃潰瘍を作成し、胃壁の神経分布や知覚神経の神経化学的変化を調べた。また神経成長因子の中和抗体の胃の痛覚に及ぼす作用について調べた。 2.Long Evansラットの新生仔に、母子分離ストレスを与え、生育後、胃や結腸の痛覚をバルーン伸展によって調べた。また結腸の痛覚を亢進する報告があるwater avoidanceストレスが胃の痛覚に及ぼす影響も調べた。 【結果】 1.胃潰瘍の組織では神経成長因子が浸潤した顆粒球に発現していた。潰瘍の周辺部位でNF200やGAP43陽性神経線維が増加していた。胃の知覚神経では、神経成長因子受容体やイオンチャネル(TRPV1,TRPV2,ASIC3)の発現は変化がないか減少していた。また神経成長因子の中和抗体は、胃潰瘍における痛覚過敏を抑えた。 2.母子分離ストレスで結腸の痛覚は亢進する傾向を示したが、胃の痛覚は逆に抑制された。皮膚の痛覚には変化がなかった。またwater avoidanceストレスは胃の痛覚に影響しなかった。 【結論】 1.胃潰瘍における痛覚過敏には、一部の神経線維の増加や神経成長因子の発現が重要な役割を果たしていると考えられた。 2.母子分離ストレスは、結腸の痛覚は亢進させるが、胃の痛覚は抑制することがわかり、ストレスが内臓痛に及ぼす影響は臓器によって大きく異なることが明らかになった。
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